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23.美味しいお菓子の作り方

「こんちわー!」
「……」
「……えっと……こ、こんに、ちわ……」

超ニコニコ顔の琴菜。ものすごく仕方なさそうだが嫌そうな顔の陸斗。
そして緊張しつつも絶対内心「友達の家に遊びに行く」という事に幸せをかみしめている様子が廉冶からすればありありと分かる三弥。

「…………こんにちわ……」
「ちょっと、レンジってばテンション低いー!」

三弥の様子は面白いがそれでも。
琴菜にダメ出しをされ、玄関先で廉冶はますます不機嫌そうな顔をした。

「ふざけるな、当たり前だ、今何時だと思ってんだ」
「え?10時」
「そう。こんにちわじゃねえし、そして俺は眠い。お休み」

そう言って背中を向けた廉冶の上着をに琴菜はつかむ。

「ちょっと何言ってんのよ!ちゃんとさっき電話したじゃん!だいたい10時って全然早くない!」
「ふざけろよ?こちとら朝の6時まで起きてたんだよ、男子高校生の休日前夜をなめんな」
「リクとミヤくんははちゃんと起きてるじゃん!」
「……そんな化け物アンドクソまじめくんと俺を一緒にするな」
「……化け物とは誰の事だ……?」
「え?え?お、俺の事、とか……?」

わたわたとしている三弥を陸斗はため息をついて見てから思った。
琴菜の頼みとは言え……。だからといってここまで来からにはこんな所でグダグダとやってられない。
そしてニッコリとしてから三弥の肩を抱くようにして廉冶に言った。

「そうか。分かった。じゃあお前は寝てろ。俺は保志乃くんと2人で仲良くやってくるわ」
「え?」

そんな陸斗に三弥は意味が分からずポカンとしている。だが陸斗が言った瞬間、琴菜には廉冶の目が光ったように見えた。

「ああ!?2人で何すんだって?ふざけんなよ?神の化身ヤローが!オラ、とっとと上がりやがれ!」
「おじゃまします」

廉冶が妙な事を言ったところはスルーして、陸斗はニッコリして言った。琴菜はなんだか笑いをこらえているが、三弥は訳が分からず首を傾げていた。

廉冶の家。
4人はキッチンに集う。

「って、何で俺がこんな事」
「言うな、レンジ。言っても仕方ない事だ……琴菜が俺とお前にだけは言いだしたら聞かないの、お前も知ってるだろうが」

ため息をついた廉冶に陸斗がボソリと言う。
この間、琴菜が廉冶と陸斗に料理を教えてもらおう、と三弥に言った事はその場の勢いだと皆ほんのり思っていた。だがそれは確実に実行されようとしていた。

「そこ!聞こえてるわよ!いいじゃないー。可愛いミヤくんの為だし!」
「……お前はただ状況を楽しんでるだけだろうが。ていうか、なんで保志乃、俺ん家知ってんの?」
「待ち合わせしたのー。ミヤくんとメールでやりとりしたんだもん」
「……いつの間に……。ったく」

呆れたように廉冶は呟いた。。

「ご、ごめん……何か、色々、お、俺のせいで……」

あ、ネガティブ発動した。
3人は思った。琴菜がニッコリと三弥を見る。

「ミヤくんのせいとか、そんなんじゃないよ!あのね、今日はみんなでケーキか何か作ろうって思ってたんだー」
「……ちょっと、待て。なんで料理の勉強でケーキなんだ?保志乃がケーキの作り方覚えても仕方ないだろうが?」
「いちいち煩いなーレンジってば。だって卵焼きとかばっか作っても面白くないじゃん」
「「……」」
「いや、俺は卵焼きすら、作れないんだけど……」

呆れている廉冶、陸斗、それと困ったような三弥を無視して、琴菜が言った。

「ほら、もうすぐユキくんとアキくんの誕生日じゃない。だから誕生日お祝いにいいかなーて思ったの」
「え、そ、そうなんだ。新井君たちって、誕生日、もうすぐなんだ。って2人とも日、近いの?」
「まあ。かなり近いよ。ていうか、あの2人、ほんともうむしろ双子でいいんじゃないかと思う事がよくあるよ」

へえ、となっている三弥に陸斗が苦笑しながら言った。
廉冶はどうでもよさげに琴菜の方を向いた。既にやる気がない。

「じゃあお前が勝手に作ってやれよ。俺は別の何かを用意するし」
「……。じゃあ……6組の秋月くんにでも声かけてみようかな……?きっとミヤくんと一緒にって分かったらケーキどころかフルコースですら作りそうだもんね……?」

琴菜が素知らぬ顔をしてボソリ、と言う。三弥は「誕生日かー……」などと呟いており聞いてないようだが、陸斗の耳には入ってきた。

「オイ、何やってんだ?さっさと始めんぞコラ。とりあえずケーキは保志乃にはまだ高レベルなんで、クッキーを作ろうと思います!」
「はーい!クッキーもいいねー」

琴菜がニッコリ手をあげた。
どこから取り出してきたのかエプロンをしめて急にやる気を出した廉冶を、三弥は不思議そうに見ている。陸斗はあきれたようにため息をついた。

「あ、エプロン、適当にそっから出して使え。ていうか4人で作るような代物じゃねえし。おい、琴菜はまだちょっとは作れんだろ?お前らは別のなんか作れよ。大量にクッキーばっか作っても仕方ないだろうが。よし、じゃあ保志乃。ちょっとお前、卵割ってみろ」
「う、うん……」

廉冶が指で指示した棚からエプロンを取り出し、三弥と琴菜はそれをしめた。陸斗はエプロンをつけないようで、とりあえず冷蔵庫を勝手に開けて、材料になりそうなものを取り出している。
廉冶は電子レンジでバターを溶かそうとしながら三弥に卵を手渡した。
三弥は卵を手にとると、真剣な様子でそれをジッと見た後でボールの端でコンコン、と卵をたたく。
最初は恐る恐るやっていたからか、ひびも入らない。それどころかボールが動いており、卵を持ちながらボールを押しつけているようにしか見えない。

「…………とりあえずボール、片方の手で持ってみようか」
「あ」

三弥はあわてて片方の手でボールを持ち、そして次に卵をボールの端に叩きつけた。
卵は見事に、擬音語で表せば「グシャ」という感じになり果てた。

「ご、ごめ……」
「……いや、まぁ、何だ、その、そうだな、ユキとかの頭叩き割る感じよりは優しくすればいいよ」
「っえ!?ごめん、俺その例え、まったく分からない」

背後では琴菜が笑いをこらえながら写メを撮っている。そんな琴菜の頭を、陸斗は呆れたようにコツンとしてから言った。

「琴菜、お前の趣味はちょっと今は休めろ、まったく。俺らはじゃあ、パウンドケーキでも作るぞ。それだと持ち運びもしやすそうだしな」
「え、ヤダ美味しそう!すごい食べたいー」
「……何他人事のように言ってるんだ?お前が主に作るんだよ。俺は指示!」
「……えー……」

琴菜がブーブー言いながら小麦粉などを計りにかけているのを見て、三弥が廉冶にニッコリと言った。

「コトちゃんって、可愛いね」

出た、天然タラシ、などと思いながら廉冶は答えた。

「ちょっと煩いけどな。でも一番可愛いのはやっぱ桃香だなー、あ、俺の妹ね。マジ可愛い」
「へえ、俺、斉藤に妹いるの、知らなかった」

すると陸斗が口をはさんできた。

「保志乃くん、こいつ、ほんとシスコンだから。もう末期だから」
「え、そうなんだ……?」
「リク、テメ、人を変態のように言うな。桃香は可愛いんだから仕方ないだろうが」
「で、その妹さんは、今日は……?」

三弥が問いかけると、廉冶がなぜか面白くなさそうな表情をした。

「……あいつどうも最近変なんだよねー?よく携帯いじくったり電話したりさー。今日もお出かけだよお出かけ!」
「おいおい、いい加減認めろよ、モモちゃんに彼氏出来たって」
「だよねぇー。すっごい楽しそうだもんね、モモ」
「うるせえ、誰が認めるかよ。俺には見えんね、そんな存在。例えいても、俺がコロス」
「とか言いながらモモに嫌われるの怖くて何も出来ないくせにー」

そんな事を喋っている3人を見て、三弥は声をあげて笑った。
とたん、3人がマジマジと三弥を見る。

「……え?あ……ご、ごめん。笑っちゃって……」
「あ、ううん!もっとミヤくんは笑った方がいいよー!」
「ああ、そうだね、楽しそうな保志乃くんを見るのはいいね」

焦ったように謝る三弥に、琴菜と陸斗がニッコリと言う。
いやいや、あまり笑われるとこっちが困るんだよ、色んな意味で、と廉冶は内心思いながら「そいや手、とまってんだよ。さっさとするぞ」と今度は計った薄力粉を三弥に渡す。

「ごめん、斉藤。あ、これに卵入れたらいいの?」
「ちょ、待て。とりあえずふるってくれる?」

廉冶は柔らかくなったバターを混ぜた後に砂糖を加えてまた混ぜながら言った。三弥は密かに首を傾げる。
“ふるう?”
そして何気にボールをゆすってみる。

後ろでは陸斗までもが口を抑えていた。琴菜は体を震わせている。
廉冶は笑っていいのか呆れていいのか分からなくなってきた。

「保志乃……お前……ほんと壊滅的だな、色んな意味で……。よくまあそれでテストの点とか、成績良いよな?」
「っえ!?ご、ごめん……。あ、成績は多分たまたまテストが俺の知ってる内容が出たんだと思う。俺、頭あんま良くないし……」
「ネガはいいから、ほら、このこし器でふるうんだよ。一度に全部入れんじゃねえぞ?何回かに分けろよ?」

ネガ?と首を傾げている三弥に、廉冶はそばに置いてあるこし器を手渡した。それでようやく三弥にも意味が分かったらしく、先ほどの自分の行動を思い出してすこし赤面している。
そんな三弥をニヤリと見てから、廉冶は先ほど三弥がやってしまった卵のボールを取り、ザルで殻をこしてから溶きだした。そして溶いた卵を混ぜていたバターと砂糖の入ったボールに何度かに分けて入れ、その都度混ぜている。

「……斉藤って、なんか手際いいね。いつも作ってるの?」
「は?いやいやいや、いつも俺がクッキー作ってるとか何ソレ気持ち悪い。別にこれくらい普通だから。ん?よし、ふるったな。じゃあこれにその小麦粉入れてざっくり混ぜてみろ」

そう言われて三弥は緊張しながら小麦粉をボールに入れた。すると廉冶がゴムべらを手渡してくる。

「ざっくり……」

とりあえずグサリ、とゴムべらをつきさしてみる。そしてそれを何度か繰り返したところで、背後で陸斗と琴菜が自分を見て笑っている事に気付いた。

「え?え?」
「……お前……おやじギャグじゃねんだから……ザクザク刺せなんて誰も言ってねーし。ほら、こう」

既になんとか笑いを堪えた廉冶が三弥からボールを奪い、手本に混ぜてみせる。

「な、なるほど……」
「……お前って……ほんと料理に関して何も知らねぇのな?ここまでとはびっくりだわ。んーこれ、ほんとは絞り出ししたいところだけどな・・・絶対またボケてきそうだし、もういいわ、スプーンですくって落とそう」
「え、俺、ボケたつもりは……」
「いいから。ほら、このティースプーンで生地すくって。んでこの天板の上に落とす。って、おいおいおい、どんだけすくうつもりだよ!」

後ろでは何度も笑いをこらえながらも着々とパウンドケーキの生地は出来あがっていたらしく、あとは焼くだけになっていた。
とりあえずあり合わせで簡単な昼食を廉冶と陸斗が作って皆で食べた後、なんとか焼きあがった見た目不格好なクッキーを、それぞれ皆口にする。三弥はそんな3人をハラハラしながら見ていた。

「あ、美味しいー!」
「うん、美味しい」
「まーまーだな」

口ぐちにそう言ってもらい、三弥は嬉しそうに笑った。そんな笑顔を廉冶はジッと見てから口を開いた。

「じゃあケーキも無事焼きあがった事だし、お前らもう帰れ。明日の放課後、持ち寄り、な」
「分かったー。……て、こっそりレポしてたい……」
「こら、琴菜。ていうか、レンジ、お前、バカするなよ?」
「分かってるよ?」

廉冶はニッコリと陸斗を見た。陸斗はため息をつきながら首をふる。

「あ、じゃあ俺も……。教えてくれて、ありがとう、斉藤。それに付き合ってくれてありがとう、方坂くん、コトちゃん」
「楽しかったねー」
「……お気をつけて」

2人の方を向いて礼を言うと琴菜にはニッコリと手を振られ、陸斗に至ってはなぜか心配されている。
三弥は首を傾げていると、廉冶にニッコリと頭をくしゃくしゃにされた。

「お前はもうちょっとゆっくりしていけよ……ミヤちゃん?」





 

 

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