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バカな子犬は今日も尻尾を振る2

 大典もそうだが、友人も働いて何年か経っている奴がほとんどだったりする。中卒や大典のように高校を中退して仕事をしている奴が多い。中には高校を無事卒業している奴もいるが大学まで進んでいる奴は知っている限りいない。いや、友人ではないが親戚にはいただろうか。
 今、ビールを飲みながら悟のことを話している相手、大吉も親の店を継ぐような形だが、小さな個人居酒屋といった店で働いている。中卒であり、中学を卒業してから手伝っていたため調理師免許もとうの昔に取得済みだ。おかげで大典は気軽に軽率に飲みながら大吉にグチを言ったり相談したり出来る。

「流されてる? 何で。それ言うならお前らのが絶対俺の話聞いてなかったり流してくんだろ」
「半端ないとか適当なこと言われてんだろ」
「ちげーよ、あれはあれだ」
「どれだよ」
「悟の口癖」
「……ほんとおめでたい奴だよお前」
「んなことねぇよ。つかさあ、どうしたら悟を上手く誘えると思うよ。いつもだったらもっと簡単な気がするんだけどさぁ」

 はぁ、と軽くため息を吐いて大典はビールのアテに頼んでいた豚の角煮を口に入れ「やべぇ……美味い」と呟く。大吉はカウンターの中で他の客の相手や調理をしながら呆れたように大典を見てきた。

「だいたい悠賀くんって男いけんのか? それ確かめたのか?」
「確かめてねぇ」
「馬鹿だな」
「馬鹿言うな」
「そこ結構重要だろ。お前はたまたま両方いけてもな、大抵は同性は無理な奴が多いんだぞ」
「まぁ、きっちゃんもそうだもんな」
「朝妻くんってそっちの人?」

 同じくカウンターで飲んでいたサラリーマンの一人が聞いてきた。何度か見かけたことはあるという程度の顔見知りだろうか。

「そっちってどっち」
「男が好きな人なの?」
「女も好きだけど男もいける」
「へぇ。まあ綺麗な顔してんもんな」
「お前もそこ納得するとこか?」

 話しかけてきたサラリーマンの隣に座っていた奴が笑っている。大典はそれに対してはスルーして大吉にビールのお代わりを頼んだ。

「明日はもうちょい攻めてみようと思う」
「お前ね、俺の話聞いてた? 悠賀くん、男いけるのかまず確かめたほうがいんじゃねぇの」
「だってよ、お前なら聞くか? 狙ってる相手によ、『男が好きですか、女が好きですか』なんてよ」
「まぁ、そりゃ聞かねぇけど、それは基本俺は男で相手は女だからだな」
「でもよ、その狙ってる女は女が好きかもしんねーだろ? でもお前はそんなの知らないまま狙うだろ?」
「馬鹿なのにそういうとこだけ口が回るよな」
「馬鹿言うな。きっちゃんも学歴は同じよーなレベルだろーが」

 ムッとしながら大典は受け取ったビールをぐいっとあおった。



 翌日、大典は結局同じような攻め方で進めていた。

「悟、俺と一緒に甘い世界へ真っ逆さまに堕ちないか?」
「マジ先輩半端ないっすねえー、いっそ先輩だけここから落ちますか」
「なんて」

 作業の音でちゃんと聞こえなかったのでつい素に戻って聞き返すと「先輩、手摺下ろしておいてください、っつったんですよ」と返ってきた。

「おぅ」

 大典は言われた通り動く。丁度その時少し離れたところから「おーい、朝妻」と呼ぶ声が聞こえる。

「あ?」
「あ、じゃねぇ。ちょっとこっち手伝ってくんね」
「うぃっす。悟、俺いない間危ねぇことすんじゃねーぞ。守ってやれないからな」
「りょーかいっす」

 はいはい、といった風に悟は頷くと作業を続ける。それをニコニコと見てから大典は呼ばれたほうへすたすたと歩いて行った。かなりの高さだが既に安定させている所なので特に怖さはない。

「お前見てるとたまに猫思い出すわ」
「タカさん何言ってんすか。つか何手伝うんすか」
「おぅ、これちょっと持っててくれ」
「うぃっす。つかこれ、重いんすよね」
「は。自慢の鍛えた体なら持てんだろ」
「ぉう、そりゃまあもちろん!」

 手を動かしながら相手が「悠賀とはうまくやれてんのか」と聞いてきた。

「悟っすか。もちろん当然」
「ならいいけど。あいつ素っ気ないだろ。まあ仕事は出来るけどな」
「素っ気ない? 悟が? 俺の言うことにいつも返事してくれますよ」
「あー……返してんのか? 流されてねぇか? まぁいいけど」
「なんすか」
「何でもねー。おっし、いい感じだな。サンキュー。まああいつとはしばらく一緒になること多いしな、飯でも誘って仲良くやれや」

 ごそごそとポケットを漁っていた相手が「あーこんだけしかねぇわ」と五千円札を寄越してきた。

「タカさんこれじゃあ飯どころか茶ぁっすよ」
「もらっときながら偉そうなこと言ってんじゃねえ」

 悟のところへ戻ると、一人で出来る大方の作業は終わっていた。

「あとここ組んで終わりっす」
「おつ。危ねぇことやってねぇ?」
「してませんよ」
「ならいい。仕事はぇえな、お前。あとさータカさんがしばらく一緒だろし飯食って仲良くしろって五千円くれた」
「……ふ」

 基本的に淡々としている悟が少し顔を逸らしてきた。だが笑い声にも似た音が聞こえてくる。

「なぁ、笑った? お前今笑った?」
「笑ってねえっすよ。つか二人で五千円て。ラーメンと餃子っすか」
「な。まあ足しにしろってことだろ。ってことで仕事終わったら付き合え! 俺の行きつけ行くぞ。そうと決まればとっとと終わらせねえとな」
「マジ先輩半端ないっすねえー、俺行くっつってないのに」
「照れなくていいって」
「ほんと半端ないっすねえ。まあいいっすよ。おごりっすよね」
「任せろ」

 その時は即答したが、後で大典はそっと自分の財布を確認した。昨日大吉の店に行ったところだが大丈夫だったかとドキドキしたが、今日くらいは問題なさそうでとりあえず胸をなでおろした。











後輩の悟は半端ないっすねが口癖かと大典は思っている。
ガテン系のわりに華奢に見えるけど仕事が好きで実はかなり鍛えてはいる男前。









2020/05/26



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