ヴェヒターS12.戯れと好奇心5
「って感じでやたら青葉、ここ何日か計画すら立てて張り切ってたんだよねーせっかく流行ってるし、ってさー。慶一くんかわいそ。絶対実行されてると思う」
睦がゴロゴロとビーズクッションの上に転がりながら言うと流河は「ふーん」とどうでもよさそうに雑誌のページを捲る。
「ちょっと、何だよその反応のなさ」
「俺が慶一とその遊びしていいってのならもっと反応するかな」
流河はようやく雑誌から目を離すとにっこり微笑んできた。
「それは俺も慶一くんでめちゃくちゃ遊びたいけどさー、でもお前はあおに殺されるよ」
「最近、弟くんますます慶一バカになってない?」
「それに関しては珍しくお前に同意するよ」
「えー、それに関してだけなの」
「当たり前だろ。今でもお前が慶一くんに近づくのは俺も許してねえしー」
「睦たちだけ許されるってずるくない?」
「ずるくねーし別に許されてるって俺思ってねーし。つか今日風紀の仕事でちょっと疲れたから肩もんでよ」
「あと睦は俺のこと、彼氏候補とか友だちとかのカテゴリに入れなさすぎじゃない? ひょっとして下僕くらいに思ってない?」
「で、もんでくれんの?」
「もむけどね? ついでに痴漢ごっこしていい?」
「したら殺す」
「りょーかい」
翌日、斗真が自室のある風紀スペースからエレベーターのほうへ向かっていると、寮長の白根がラウンジの辺りでジュースを飲んで寛いでいるのに気づいた。
「おはようございます。またアップルスペシャルですか。好きですね」
「美味いしね。やっぱりお前も飲む?」
「僕は遠慮しておきます。あんたから頂くのも申し訳ないですし」
「大丈夫なのに。俺の部屋にも買い占める勢いで置いてるし」
「……やっぱりあんたはこのジュース会社の回しもんじゃないですか?」
「それでもいいんだけどな。……ああ、ところでここ数日、風紀で何かあったのか?」
「え? いえ、これといっては」
「ならいいけど。ここんとこ、そっちからやたら外出届や外泊届が多くてな」
「……たまたまじゃないですかね。じゃあ僕は学校へ向かうので」
にっこりと微笑むと斗真はその場から立ち去った。
内心「多分内部で流行ってた痴漢ネタのせいなんだろうな」と苦笑していた。確か良紀も元ネタらしい本に絡んでいたはずだ。
……生徒会、風紀の中に付き合ってる人がいない同士、流れや行方でも一緒に楽しむかな。
そんな諸々があった週末、宏はニコニコと千鶴を見ていた。
「チヅ、とてもいいと思うんだけどね」
優しく言い聞かせるように言うと、千鶴がじっと宏を見つめながらコクリと頷いてきた。
「……うん。でもこういうのはきっと違うと思うよ……」
頷いてくる千鶴は可愛いんだけど、と宏は苦笑した。
風紀の雫たちから本を没収したのは数日前だ。相変わらずの喧嘩かと思いつつも内容が微妙に物騒だなと思っていたら気になる本に目がいった。
とりあえず笑顔で牽制しつつ聞けば拓実が睦と青葉から没収したものらしい。ただ、それの処理を雫に任せて基久と帰ってしまったとのこと。
なるほど……と思いつつ宏はにっこり「喧嘩は駄目だよ」と念を押し、本はそのまま預からせてもらった。二人が妙に落ち着かない様子で青い顔をしていたのは恐らく本の内容のせいだろう。R指定云々というより登場人物だ。
何となくは知ってたけど……まあ睦と青葉は器用だねぇ……。
パラパラとめくりながら思った。確か千鶴がこれに関しては知っており、それも満足しているようなので宏としては何も言えない。とはいえ千鶴との行為を他人によって表現されるのは何とも複雑なものだなと苦笑せざるを得ない。
……俺、さすがにこんな反応はしないと思うんだけどな。あとああいう電車でよくここまでやれるものだな。
本ではどう見ても完全にやらかしている。何度か日本での一般的な電車に乗ったが、あのスペースでこういったことを行おうと思えるのが凄いと宏はある意味感心した。
まぁ、チヅは多分今回のこの本の存在も知ってるんだろうし、俺は何も言わないでおこう。
そう思っている中、生徒会や風紀では地味に「痴漢」が流行りだした。まさか発端が雫たちやもしくはあの日基久を連れて帰った拓実だとは思わないが、あの本の影響のような気はとてもした。風紀全般として目に余るようならさすがに釘をさすかと思っていたが、一見とても地味に流行っている様子なのでこれに関しても今回はそっとすることにした。
カップルのことに口を挟むのも野暮だしねぇ。
そんな週末、無口な千鶴に服をそっとつかまれて連れてこられて今、苦笑する羽目になっている。
「そもそもよく予約出来たね、チヅ」
宏が言うと千鶴は携帯電話を出してきた。そこに千鶴の兄、澄とのやり取りがあった。
ああ、同じ家にいるのにまるで筆談だな。
宏はまた苦笑した。どうやら澄に頼んで既に数日前に予約を取ってもらったようだ。本来誰もつけずに遠出は出来ないので、恐らく同じ車内のどこかに家の者がいるのだろう。
「うん……分かった。……でも何でこの電車? 出雲まで行きたいって訳じゃないんだよね?」
宏の言葉に千鶴が分かりにくい程度に照れている。やはりそうか、と宏はまた苦笑した。
「チヅ、電車での痴漢プレイはこういう電車じゃないんだよ」
「……っ?」
「ここ、寝台列車の完全個室のツインだからね、周りの目に隠れながらって訳には」
「……」
千鶴が今度は微妙に分かりやすく落ち込んだ。ただそれすらも宏にとっては可愛い。
「でも俺、夜ずっと移動している外を眺めながらお前と眠られるなんて凄くわくわくするよ」
「……」
千鶴が顔を上げ、ぎゅっと宏を抱きしめてきた。
「ハラハラすることは出来ないけど、ロマンチックな時間は過ごせそうだね、チヅ。……ああでも声はひそめないとだから、そこはハラハラするかな? 明日は神社へお参りして、どこかホテルで優雅なブランチでも頂こうか。財布だけは持ってきていてよかったよ」
すると千鶴がまた少し嬉しそうに頷く。
「ただ今夜は何もないねぇ。確かこの寝台列車は車内販売がなかったんだよね。チヅ、お前の鞄にまたお菓子かなんか、残ってないかな?」
すると千鶴がいそいそと鞄の中身を取り出した。恐らく宏の分の着替えなども入っているのだろう。そんな中、ひたすら鉛筆や他の文房具に紛れて様々な菓子が出てきた。
「よし、じゃあ今晩はこのお菓子とそしてお互いを美味しく頂こうね」
宏は笑って千鶴にキスをした。
久しぶりに書いてもそれぞれのキャラ覚えているものだなと。
個性ごとの反応とか書いていくの楽しかったです。
2018/09/10
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