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スキンシップ15

ハッとなり、麻輝は慌てて体を離した。
黒兎を見ると驚いたような顔をしている。

ああそう。これが驚いた顔だよな。

焦っている筈がなんとなくそんなことを思ってしまう。
不意に目の前に顔があった時の黒兎はこんな顔ではなかった。確かに戸惑ったような風ではあったが黒兎が「……お前のように驚いているように見えなかったか?」と言ってきた時は「無いわ」と即座に思った。
戸惑い、目を逸らすなんて、ある意味黒兎らしくない。

ねえ、クロ……それって俺が期待するようなことの可能性、ないのかな?

キスをいきなり勝手にしてしまい、離れてすぐに謝ろうと思った麻輝だが黒兎の表情を見て気持ちが変わった。
確かに表情豊かではないしどちらかと言えば無表情に近いが、今の顔に嫌悪はなかった。

「キス……されても嫌じゃない……?」

ぼそりと呟くと黒兎は更に怪訝な顔をしてきた。
一瞬、まさかキスを知らない純朴な……? と夢見ているようなふざけた発想が過ったが、黒兎が中学生の頃に「セックスするなら女性がいい」などとハッキリ言い切っていたことを思い出し、とりあえず麻輝は自分の痛々しいほど甘い発想に微妙になった。

「な、んでそんな怪訝そうな顔をしてるの?」
「……今は驚いたんだ」
「え? ああ、うん、そ、うだね。俺でもクロが驚いたんだろうなって分かる顔してた。でも怪訝そうな顔もしたよね」

麻輝が改めて言うと、黒兎は首を傾げる。だが麻輝に答えを求めてるといった感じでないように思えたので黙っていると不意になにやら気づいた表情になる。

「なにか分かったの?」
「なにが」
「……怪訝そうだった理由、とか……」

わざとなのだろうかと思いそうだが、これが黒兎だと麻輝は自分に言い聞かせる。

「分からない」
「え? でも今、なんか分かったような顔しなかった?」
「ああ。驚いたけどお前にキスされたの、別に嫌じゃなかったなと思って」

それを聞いて、先ほど自分が言った言葉のことだと麻輝は気づく。
とてもマイペースで不可解気味だと思っている黒兎だが、もしかしたらそういう時も案外ちゃんと話を聞いたり考えたりしてくれているのかもしれない。
とはいえ、では怪訝そうな表情だった理由は「キスが嫌かどうか」ではない別のことのかと疑問に思う。

いや、そんなことは今どうでもいい。
嫌じゃ、ない。

麻輝は顔が熱くなった。
もう一度したら、だが怒るだろうか。そう思った時、黒兎がじっと麻輝を見ながら言ってきた。

「なあ、もう一度してみて。確かめたい」

黒兎の言葉に麻輝は、なにを、とは言わなかった。
なにを確かめたかろうが今は良かった。
麻輝はなにも言わずに黒兎を抱き寄せていた。そしてキスをする。
先ほどよりはもう少し唇を合わせた。童貞だけでなくキスすら初めてで、麻輝はもうどうにかなりそうだった。

唇が気持ちいい。暖かい。どうしていいか分からない。興奮する。好きが溢れる。どうしていいか分からない。もっと味わいたい。可愛い。どうしていいか分からない。

ぐるぐると麻輝の中がたくさん混乱をきたしている。
唇が離れた時、黒兎が少し笑った。
へたくそとか言われたら倒れるかもしれないと麻輝は思う。

「どうやって息するんだろうって思ってたけど、案外普通に出来るものだな」

最初に「そこ?」と思ったが、すぐにハッとなる。
もしかして黒兎もキス、初めてなのだろうか。

「く、クロ、キス……初めて……?」
「ああ」

恥ずかしさも気負いもなにもないといった風に堂々と黒兎は頷いてくる。
中等部の頃にそれこそ堂々とセックスを口にするくらいだったから、もしかしたらそれなりに経験あるのだろうかと思っていただけに嬉しい誤算だった。黒兎の性格を思えばあるよりないと思いそうだが、こればかりは麻輝自身がずっと黒兎を好きなせいもあって未経験だけに分からなかった。

……って、待って。

そして今さらに気づく。
もしかしなくとも、ファーストキスを黒兎はくれたということになる。
これも黒兎の性格なら特になにも気にしていないかもしれない。だがそれでも嬉しかった。

「……なんか分かった気がする」

黒兎がボソリと呟く。
なにが、と聞く前に黒兎のほうからキスをしてきた。
真っ赤になって固まっていると唇はすぐに離れた。

「さっきから顔、赤いな」

そりゃそうだよ!
だって君は俺の大好きな人なんだよ?

心の中で答えていると黒兎がまた「ああ」と分かったような顔をしてきた。

「クロフェチってやつか。キスも対象なんだな」

違う……!

麻輝はとてつもなく微妙な顔になった。
クロフェチだと言って誤魔化したおかげで少し、いや、かなり自分にとってお得な展開になれるのではと思っていたが、逆効果でもあるのだなと思い知った。
キスをするなんて普段の自分のヘタレ具合からは大いに褒めていい程の行動力だと麻輝は思う。
だというのにクロフェチで片付けられてしまえるのだ。

ここではっきり「違う」と言い、告白するのが模範的行動のように思えた。
だがそれをサラリとこなせるなら、手を散々愛撫され続けて四年目となる間に既に出来ている。
ため息を吐きたいと思っていると黒兎が手に触れてきた。
キスで結構興奮していたんだと触れられ改めて気づく。麻輝が体をピクリと震わせていると「お前も触れていい」と黒兎がどこか機嫌がいい様子で言ってくる。

もう、知らないからね……っ?

麻輝はグッと堪えるような顔をした後に無理だとばかりに空いているほうの手で黒兎に触れた。
触れたといっても別に際どいところではない。頬にだ。
それでもとてつもなく心臓が跳ねた。

そっと触れると、つるりとした頬は予想通りひんやりとしていた。だが予想と違ったのは手のひらになんとなくサクッとした感触もあったことだ。
すぐにそれが目に見えない程の産毛なのだと分かると妙に愛しさを感じた。

……ひげ、あまり生えないのかなー。

そんなことを思って気を紛らわせながら触れていたが、だんだんとムラムラとする気持ちが高ぶってくる。

本当に無理だ。

ぎゅっと目を瞑り唇を噛み締める。

「マキ?」

黒兎が怪訝そうな顔を向けてくるのを感じた。

もう駄目だ。

押し倒しそう、と思った時「おぃーす。茶島来てたんだな」と麦彦が部屋に入ってきた。正しくは帰ってきた、だろう。
そして黒兎と、唖然としながら固まっている麻輝を見ると「お? お前らマジなんなの」と笑いながら特に気にした様子もなく制服を着替えだした。










ようやくこれから、という時にお約束のように明るく無自覚に邪魔に入る男。
それが麦彦。









2017/06/17

 

 

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